中野こども病院 小児外科 

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遊走精巣(移動性精巣)

治療方針:精巣を陰嚢底までひきおろせるが、刺激で挙上しやすいものをいう。家族に、24時間のうちどれくらい挙上しているか、観察してもらう。お風呂や、寝ているときに陰嚢内に下がっているなら、ほぼ問題はない。

遊走精巣とは?

停留精巣とは、精巣が陰嚢底まで降りていないものをさす。これは発生学的な異常である。これに対し、遊走精巣(移動性精巣)とは、精巣は陰嚢底まで降りているが、動きやすいものをさす。遊走精巣は発生学的な異常ではない。

病態

正常の精巣は、精索周囲にからみつくように存在する精巣挙筋により体幹から引っぱられいる。精巣は普段は陰嚢底に存在するが、精巣を触る、寒い、運動、性的興奮など外的刺激が加わると、精巣挙筋が収縮して、精巣は腹腔側に引き寄せられる。これは精巣を守ろうとする一種の防御反射といえる。この反射が強いと、精巣が動きやすく、鼠径部まで引き上がり、体幹に引き寄せられている時間が長くなる。これが遊走精巣(移動性精巣)である。 

遊走精巣は、発生学的な異常ではないので、精巣、精巣動静脈、精管、鼠径管は正常に形成されている。だから、精巣は、あがっても鼠径部にあり、鼠径管内あるいは腹腔内まで上がる事はない。したがって、必ず精巣を触知できる。また、精巣を掴んで陰嚢底まで引き下ろせる。引き下ろせない場合は、停留精巣である。

停留精巣は、体温で精巣の正常の発育が妨げられるといわれている。遊走精巣でも、挙睾筋の収縮が強くて1日の内ほとんど体幹に引き寄せられていると、精巣の正常の発育が妨げられるかも知れないというのが、唯一の医学的な問題点である。しかしこれに関して明確なevidenceがあるわけではない。

遊走精巣か否か?

精巣が動くことは病気ではない。では、1日のうち何時間上がったままなら病的で、それ以下なら正常範囲なのかはっきりした基準がない、のが現状である。だから患者への説明としては、1日24時間の内23時間も上がっているようであれば、問題があるかも知れません。と話している。普段の観察で精巣が陰嚢内にあるくらいなら、ずっと挙上しているとは考えにくく、病的とは言えない。

外来での遊走精巣

1)精巣の触診は結構難しい。

 正常の精巣を、停留精巣あるいは遊走精巣として紹介される事がときどきある。精巣のつかみ方、引っ張り方にはコツがあり、小児科の先生方にとっては精巣の触診は意外と難しいようだ。
  遊走精巣では、児の緊張の程度で精巣の位置が毎回異なる。初回の外来で、最初にパンツをおろして診察したときの精巣の位置が重要である。初回は児もあまり構えていないので、そのときに精巣が陰嚢底に触知できるような児は、動きやすくとも普段は陰嚢内にあると考え、まず問題ないと判断している。

2)精巣1日のうちどれくらいの時間挙上しているか?

 お母さんにとっては精巣の触知の仕方がわからないのはなおさらである。母親に、精巣の触知の仕方をきちんと説明し、そのうえで普段どの位置にあるか、24時間のうちどれくらいの時間挙上しているかを、1ヶ月間観察してもらう。 寝ているとき、お風呂に入ったとき、入浴後、など、安静時に陰嚢に治まっているようであれば、まず問題はない。

3)手術適応

1日のうちほとんど挙上しているものや、両側の遊走精巣で挙上の程度がきついものは、精巣機能温存の意味から手術を考える。遊走精巣の多くは手術適応ではない。全遊走精巣のうちどれくらい手術になるかは、施設によってまちまちで、5%から25%くらいと多くはない。


 参考文献:

中野こども病院 小児外科 松川泰廣

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