中野こども病院 小児外科 

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急性虫垂炎、虫垂炎の再発(ちらした虫垂炎)

ポイント:ほぼ4歳以後の疾患。右下腹部圧痛のとり方。直腸指診が重要。ちらした既往のある場合は手術優先。
 急性虫垂炎は4歳以上で見られ、3歳以下は極めて稀である。年少児ほど症状、所見とも曖昧なので、4、5歳の虫垂炎の診断がもっとも難しい。またこの時期の虫垂炎はたいてい腹膜炎を伴っている。 一般的には、発熱、CRP上昇・白血球増多など炎症所見があり、右下腹部の圧痛があれば急性虫垂炎を考える。腹部所見は圧痛と腹膜刺激症状をチェックする。軽症の虫垂炎ではピンポイントの右下腹部圧痛を示す(McBurney point)。炎症が広がると圧痛点は広がるが、やはり右下腹部に最強の圧痛点がある。腹壁からの圧痛が曖昧な場合は、直腸診で圧痛の有無をチェックする。炎症がさらに拡がると、腹膜刺激症状(筋性防御、ブルンベルグ徴候)を呈する。腹膜刺激症状があれば、手術対象である。年少児では、腹膜刺激症状のうち、ブルンベルグ徴候は、患児の主観がはいりあてにならないので、筋性防御を優先する。手の平を腹部にあててじっくり観察すること。

直腸指診での圧痛
 重要。従来、直腸指診は、腹膜炎、虫垂周囲膿瘍の指標とされてきたが、虫垂炎の限局性圧痛の指標としてきわめて重要である。直腸指診で右の片側性の圧痛があれば虫垂炎を考える。年少児では虫垂間膜が短く虫垂が盲腸の背側にもぐっていることが多い。また虫垂は一度炎症を起こすと、虫垂間膜が短縮し、盲腸背側に引き込まれて癒着する。だから既往のある虫垂炎では、腹壁からの圧痛は弱く、直腸指診でないと圧痛が確認できなくなる場合がある。

虫垂炎を「ちらした」らどうなるか?
 最近の医療の傾向では、カタル性、蜂窩識炎性は手術しなくても治るとされ、抗生剤治療が選択される傾向にある。「ちらした」虫垂炎は再発しないのか、再発するならどういう再発のしかたをするのだろうか? 
(症例)10歳女児。下腹部痛で来院。右下腹部に軽度の圧痛があった。発熱もなく、白血球も 5,000 と増多もなかった。しかし直腸指診で右側に強い圧痛があった。1年前に虫垂炎を疑われ抗生剤投与で軽快した。以後腹痛がときどきありそのたびに抗生剤投与でおさまっていた。手術で摘出された虫垂は肥厚萎縮し急性炎症所見はなかった。手術後腹痛発作は完全に消失した。
「ちらした」虫垂炎の28%ー55%で腹痛が再発するといわれている。私の経験では、「ちらした」既往のある虫垂は軽微な炎症を繰り返すことが多い。炎症所見が少なく、虫垂の腫脹もないことが多く、臨床の場では、虫垂炎ではないと診断されてしまうことがある。(症例)のように、虫垂が繰り返す腹痛の原因となっているケースがかなりみられる。なかには精神的な痛みといわれ放置されているケースもある。虫垂を切除すれば完全に痛みはなくなる。虫垂炎をちらした既往のある例では、軽症でも手術を考えるべきである。


参考文献: 
 松川泰広他 小児虫垂炎142例の検討.島根県立中央病院医学雑誌, 6: 76-81, 1979. 
 松川泰廣:  "ちらした"虫垂炎の手術適応.小児外科 33: 487-492, 2001.
 松川泰廣: 【研修医に必要な小児救急診療マニュアル】よく見る症状への対応、腹痛、虫垂炎の診断.臨床研修プラクティス 1: 41-47, 2004.


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