中野こども病院 小児外科 

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胃軸捻転症 いじくねんてんしょう

赤ちゃんがミルクをはく(その2)、 いつも機嫌が悪く、げっぷがへたで、お腹がはっていませんか?

あおむけ
うつむせ

 生まれたての赤ちゃんで、機嫌が悪く1日中泣いていてずっと抱いていないといけない赤ちゃんがいます。こんな赤ちゃんでげっぷが出にくい児がいます。それがこれからお話しする胃軸捻転です。げっぷが出せない、おなかがすごく張っている(腹満)、ミルクを吐くなどの症状がある場合には、胃軸捻転の可能性があります。胃軸捻転はあまり注目されていませんが、新生児期・乳児早期に、よくみかけます。実は、新生児の腹満やミルクの嘔吐で一番多い原因は胃軸捻転です。

お腹のはった赤ちゃん、1日中おならをしていませんか?

 新生児期の腹満は、腸に原因がある場合と胃に原因のある場合があります。腸に原因のある病気の代表格はヒルシュスプルング氏病です。今日は詳しくお話ししませんがヒルシュスプルング氏病はとても危険な病気です。だから、赤ちゃんで腹満があれば、小児科のドクターは必ず小児外科に紹介するはずです。胃に原因のある代表が胃軸捻転です。

げっぷが下手な赤ちゃん、1日中おならをしていませんか?

 胃軸捻転でなぜ腹満がおこるのでしょう?赤ちゃんはミルクを飲むとき同じくらいの量の空気を飲み込みます。これを赤ちゃんは普通げっぷとして出しているわけです。誕生間のない時期、赤ちゃんの胃はまだ固定されておらず動きやすいので、上後方にねじれると食道を圧迫して、げっぷが出せなくなります。げっぷが出せないと飲み込んだ空気が腸に流れ込み腹満をきたすのです。げっぷのかわりに赤ちゃんは1日中プープーとおならをしています。

1日中ぐずっている赤ちゃん

 胃軸捻転の赤ちゃんは、上向きに寝かすと胃のねじれが増すので機嫌が悪く、抱くとねじれが戻って泣きやむので一日中抱いていないといけないことが多いようです。昔で言う、夜泣き、疳(かん)の虫というやつですね。

ミルクを吐くこともあります

 胃軸捻転の赤ちゃんはげっぷが出しにくいのですが、なんとかげっぷを出そうとしてミルクを吐きます。ミルクの嘔吐は全例ではありません。ミルクを吐く場合は肥厚性幽門狭窄症を疑って小児科からよく紹介を受けます。X線写真を1枚撮ると、区別がつきます。

ヒルシュスプルング氏病ではないの?

 胃軸捻転はよくある病気です。ヒルシュスプルング氏病はすごく稀な病気です。見分け方のコツをお話しします。ヒルシュスプルング氏病では便もおならもほとんど出ません。一方、胃軸捻転では、1日中おならをしています。X線写真では、腸管全体にガスが多量に貯留した像なのでどちらの病気による腹満かなかなか区別がつきません。鑑別点はおならが出ているかどうかです。胃軸捻転ではおならが出過ぎるくらいに出ます。一日中プープーとおならをしています。赤ちゃんはミルクを飲むとき同じくらいの量の空気を飲み込みます。げっぷとして出せないのでおならとして出るわけです。ヒルシュスプルング氏病では強度の便秘で便もおならも非常に出にくくなります。胃軸捻転の確定診断には胃透視を行います。

心配すべき病気なの?

 胃軸捻転はほとんどの場合心配いりません。手術が必要になることはまずありません。ただ、まれに、空気で拡張した腸が胃をもちあげてねじれがさらにひどくなるという胃軸捻転の悪化のサイクルに陥ってミルクが飲めなくなることがあります。なんらかのおならの出にくい状態が加わるとひどい腹満をきたすこともあります。目安は体重です。ミルクが飲めていて体重が増えているならまず心配はいりません。生後2−3ヶ月くらいで胃の固定が完成されて自然に治ってきます。

どうしたら?

 治療は、1)浣腸と2)なんとかげっぷを出すことです。腸管のガスを浣腸で早めに出すと胃のねじれがもどるので有効です。特に夜泣きにには寝る前の浣腸が有効です。げっぷを出すコツは、うつぶせです。うつぶせにすると胃が腹側に落ちるので食道への圧迫が少なくなり、胃の空気は食道近くにもちあがるので、げっぷが出しやすくなります。うつぶせはげっぷを出しやすい体位なのです。しかし最近は、うつぶぜ寝が突然死の原因になるともいわれているため、おおっぴらにはお勧め出来ません。だからミルクを飲んだ直後お母さんが目の届く範囲で、うつぶせにして背中をとんとんたたいてあげるといいでしょう。赤ちゃんから離れるときはあおむけにしましょう。抱いてげっぷを出す場合も、縦抱きではなく肩にかつぎあげてうつぶせに近くして背中をとんとんする方がいいですね。ミルクは1回量を少なくし回数で飲ませましょう。途中で休憩してげっぷを出すのも有効です。でも胃軸捻転があるとなかなかげっぷは出せないようです。
 胃軸捻転はあまり知られていないので、経験の豊富な小児外科を受診しましょう。

 


中野こども病院 小児外科 松川泰廣

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