中野こども病院 小児外科 

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陰嚢水腫、Abdominoscrotal hydrocele (ASH)

治療方針:1歳までは手術しない。1歳すぎると不変で、外観を治すには手術が必要。

発生および病態

 水腫も鼠径ヘルニアも、発生学的には同じ由来で腹膜鞘状突起の癒合不全によって生ずる。癒合の程度によりいずれかに分かれる。腹膜鞘状突起が完全に癒合して閉鎖してしまうのが正常である。鞘状突起が癒合せず広く開存したまま残り、臓器の脱出がおこるのが鼠径ヘルニアである。鞘状突起がくびれるように癒着し、極く細い交通路で腹腔につながり、末梢に水腫を形成したのが、水腫である。
  別の言い方をすると、水腫では全例で、ミクロのレベルで腹腔とつながっているのである。こういう観点からいうと、水腫はミクロレベルでは全て交通性であり、交通性水腫、非交通性水腫という言い方はあまり意味がない。

水腫と鼠径ヘルニア

 水腫は完成された病態であり、水腫から鼠径ヘルニアになることはあり得ない。水腫と鼠径ヘルニアの合併はありうるが、私の観察からは、水腫と鼠径ヘルニアの合併例はごく稀にしか見かけず、臨床的には別々の疾患と考えてもいいくらいだ。

陰嚢水腫と精索水腫

 以前は、精索水腫ではヘルニアの合併が多いという説もあったが、私の臨床的観察からはそういう傾向は全くない。陰嚢水腫と精索水腫の差は、 鞘状突起の閉鎖が起こった部位の違いのみで、臨床的な差異はほとんどないと考える。

経過、外来での注意点

 水腫は、1歳までは95%は自然治癒する。 1歳以後になると自然治癒の傾向は乏しい。
 外来では鼠径ヘルニアではないか、きちんと確認する必要がある。水腫とヘルニア嵌屯の鑑別もふくめ、水腫と鼠径ヘルニアの鑑別は慣れるまでは意外と難しいようだ(鼠径ヘルニアの項参照)。扱い慣れている小児外科医に相談すべきである。

治療

  保険の請求項目には未だに水腫穿刺排液という項目があるが、水腫が内容液の穿刺排液で治癒することはない。排液後すぐに液が再貯留する。万が一、水腫と鼠径ヘルニアが合併した例では穿刺は腸管損傷の危険がある。水腫の穿刺は禁忌と考えるべきである。
 水腫は、1歳までは手術せず、自然治癒を期待して経過をみる。
 1歳以後は、自然治癒の傾向に乏しく、外観を治すには手術が必要である。

 鼠径ヘルニアを合併した水腫は、鼠径ヘルニアに準じて早期に手術するということになっているが、実際には鼠径ヘルニアと水腫の合併はほとんどない。

手術

  水腫の治癒とは、(少なくとも小児では)、水腫そのものが閉鎖することではなく、ミクロレベルの鞘状突起の開存が閉鎖し、水腫と腹腔との交通がなくなることである。水腫に全く手を加えず、腹膜鞘状突起を中枢で結紮切離するだけで治癒する。

Abdominoscrotal hydrocele (ASH))

  最近、陰嚢水腫あるいは精索水腫の上縁が腹側までのびた、Abdominoscrotal hydrocele (ASH)という病型が注目されている。ごく最近まで非常に稀な疾患とされていたが、私は、10年で30例近く経験しており、日常的に見逃されているだけで、決して稀な疾患ではないことを報告してきた。手術法や病態に関しても報告してきた。文献を参考にして頂きたい。


参考文献:
 松川泰広他: 索状物の組織学的検討からみた陰嚢水腫,精索水腫の手術.日小外会誌 28: 605, 1992.
 松川泰廣他: 陰嚢水腫,精索水腫の手術法.日小外会誌 32: 568, 1996.
 小泉将之、松川泰廣他: 鼠径ヘルニア,水腫,停留精巣における鞘状突起の形態の違いと剥離手技の工夫.日小外会誌 35: 640, 1999.
 松川泰廣: 陰嚢水腫・精索水腫の解剖学的検討と手術法 水腫切開なしの鞘状突起高位結紮術の評価. 日小外会誌 43:672-677, 2007.
 松川泰廣 他: 小児陰嚢水腫・精索水腫の新手術法:われわれの腹膜鞘状突起/内精筋膜一括閉鎖術の実際. 日小外会誌 48: 193-197, 2012.
 松川泰廣 他: 腹膜鞘状突起の閉鎖のみで水腫を切除しないAbdominoscrotal hydroceleの新術式の評価. 日小外k会誌, 49: 1196-1202, 2013.
 松川泰廣 他: Abdominoscrotal hydroceleの臨床像 なぜ診断が困難なのか? 日小泌会誌 23: 12-17, 2014.
 松川泰廣 他: Abdominoscrotal hydocele(ASH)の腹膜鞘状突起(PV)閉鎖手術の有効性を裏付けるPVと水腫の交通路の検討. 50: 620, 2014.


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