治療方針:見つけ次第手術。1歳以下は嵌頓の危険大。1歳以上は自然治癒なし。
発生
小児の鼠径ヘルニアは、すべて先天性である。胎児期、精巣下降に伴って腹膜鞘状突起が出来るが、これが開存したままであると鼠径ヘルニアとなる。小児では、成人の鼠径ヘルニアのように筋層の脆弱によっておこることはほとんどない。
見つけ次第手術
鼠径ヘルニアはみつけしだい手術を勧める。鼠径ヘルニアは腸管の脱出、嵌屯、壊死をおこすからである。全体の嵌屯率は7%で、1歳以下では15%と高率である。嵌屯後3、4時間で腸管の壊死の危険が生じる。1歳以下では自然治癒の傾向もあるが、嵌屯の危険が高い。治癒過程で鞘状突起の部分的な狭窄がおこり嵌屯のおこりやすい状態になるためである。1歳以上では、嵌屯の危険性は低いが自然治癒は期待できない。したがっていずれの年齢でも見つけ次第手術をすべきである。男子の鼠径ヘルニア嵌屯の合併症として、腸管壊死に加えて精巣の虚血性壊死もおこりうる。新生児・乳児期には、腸管の血行障害よりも精巣の血行障害の方が早くくるともいわれ、この点でも嵌屯例は手術を急ぐ必要がある。
手術法
手術は比較的簡単である。小児の鼠径ヘルニアは、鞘状突起を高位で閉鎖するのみで治癒する。成人例のように筋層を補強する必要はない。この方法はポッツ法といい小児鼠径ヘルニアの標準的術式となっている。 最近、腹腔鏡での手術もよくやられている。腹腔鏡手術でなければならいわけではない。
鼠径ヘルニアの嵌屯と水腫の鑑別
触診上、鼠径ヘルニアの嵌屯例では腸管が腹腔内に続いているので、陰嚢部の腫脹が鼠径部にドーンと続いている感じがある。水腫では、腫瘤が指の中につかみこめる。新生児では直腸指診で鑑別のつくこともある。
鼠径ヘルニアの嵌屯では、ぐったりして機嫌が悪い。水腫では元気そのものである。腸管の嵌屯の診断には、エコーが勿論有意義であるが、エコーが利用できない場合でも、腹部単純写真で陰嚢に空気像を認めるので、是非試して欲しい。
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